新型コロナウイルスの感染予防行動

蒲郡のコロナばらまき男の事件は、本当に酷い事件であるものの、ウイルスが感染する過程を映像として記録し、しかも、その映像が多くの人が見ることになったという点で貴重な事例となりました。一方、直接の接客を担当した従業員ではなく、全く接点がなかった従業員の方が感染してしまったということに疑問をもった人も多かったと思います。

そこで、BMJ(British Medical Journal)が公表したメンタルモデルを用いて、ウイルスに感染しないためにどのように行動すべきなのかを解説してみたいと思います。

その他、政府の掲げる『3つの「密」』を避けるキャンペーンやビデオ会議の注意点などにも検討しました。

BMJのメンタルモデル

BMJ(British Medical Journal)のOpinionとして公開された記事Slowing down the covid-19 outbreak: changing behaviour by understanding itには、以下のようなメンタルモデルが記載されています(日本語への翻訳は筆者)。なお、『メンタルモデル』とは、頭の中にある「ああなったらこうなる」といった「行動のイメージ」を表現したものと説明されています(wikipedia)。

BMJ Opinionの記事のタイトルからも解るように、このメンタルは、新型コロナウイルス(covid-19)の感染という現象を理解することで、私たちが『行動変容』するためのものです。簡単に言うと、ウイルスに感染しないためには、どのように行動をすればよいかを図に表したものです。

左端の赤丸『感染者が咳orくしゃみ』から、右上の赤丸『第三者が飛沫を吸入(感染)』までは、意外と複雑な経路を辿っていることが解ります。

各白丸は、感染経路の途中で起きる現象であり、緑のブロックは、感染経路を断ち切るための行動を意味しています。この図から、『手洗い』『咳エチケット』『距離を保つ』などの行動が大事であることがよく解ります。

そして、このメンタルモデルの素晴らしいところは、どのタイミングで『手洗い』『咳エチケット』『距離を保つ』などの何をすればよいのかが解るというところです。

そして、『感染という自然現象』は、①~④の4つの経路に分けられることを理解しておきましょう。

コロナばらまき男のケーススタディ

蒲郡のコロナばらまき男の事件は、新型コロナウイルスの感染が判明していた感染者が、自分が感染者であることを知りながら、パブに行ったことにより、そのパブの従業員が感染してしまった事件です。この方は、自分が感染していること知っているだけではなく、「ウイルスをばらまく」と宣言してから出掛けたことが報道され、大きな非難を受けました。

ただし、ここで着目したいのは、コロナばらまき男(感染者)から感染してしまった従業員は、直接の接客を担当した従業員ではなく、全く接点がなかった従業員の方であったことです。

直接の接客を担当した従業員をAさんとし、接点がなかった従業員をBさんします。Aさんは、感染者である男性の接客を担当し、その接客途中で感染者から手を握られたり物理的な接触がありました。一方、Bさんは、接客を担当しなかったどころか、この男性と10m以内に近づく場面もなかったそうです。唯一の接点は、この男性が座っていたソファーに、男性が移動した後に、従業員のBさんが座ってしまったことです。しかも、Bさんは、そのソファーに座って化粧などをしていたそうです。

結果的には、『Aさんは感染せず』『Bさんは感染した』、2人の命運を分けたのは何だったのでしょうか?BMJのメンタルモデルは、この違いを明確に説明することができます。

Aさんの場合、感染者である男性客から手を握られるなどの物理的接触がありました。しかしながら、報道などで確認すると、Aさんが感染していることが告げられた後に、おしぼりで自分の手を拭いていました。おしぼりで手を拭く程度ではウイルスを完全に除去することはできないでしょうが、その後の行動で感染に至る可能性は大きく低減したはずです。

このように、Aさんの場合、感染者から手を握られるという物理的接触の後に、手洗いなどの手指衛生を行ったことで、感染経路④の途中でブロックすることができたのでしょう。

一方、Bさんの場合、感染者の男性客と直接的な接触はなかったものの、感染者が座っていたソファーにすわることで『汚染した面を触り』、その後『手を洗うことなく』、化粧をすることで『顔を触ってしまった』。

一方、Bさんの場合、感染者の男性客と直接的な接触はなかったものの、感染者が座っていたソファーにすわることで『汚染した面を触り』、その後『手を洗うことなく』、化粧をすることで『顔を触ってしまった』。

このように、Bさんの場合、感染者の男性客と直接的な接触はなかったものの、感染経路③がゴールまで繋がってしまったのでしょう。

蒲郡のコロナばらまき男の事件では、感染してしまった従業員は、直接の接客を担当した従業員ではなく、全く接点がなかった従業員の方であったのですが、そもそも感染経路(③④)が別の現象だったのです。

また、感染予防に『手洗い』が重要であることが、この事例およびBMJのメンタルモデルからもよく解ると思います。なお、感染予防に『手洗い』が有効であることは、統計的手法によっても証明されています(例えばコクランライブラリを参照)。

3つの「密」を避けるだけでは不十分

政府は、新型コロナウイルスへの対策として、クラスターの発生を防止することが重要であるとして、3つの「密」が重ならないようにすることを盛んに訴えています(政府のチラシ)。

ご存知の通り、このキャンペーンは、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の3月9日の見解から来ています。

ここで、敢えて言わせていただくと、このクラスター発生条件は、感染予防策として不十分であるし、お世辞にも科学的に検証された条件ではないように思います。

1.観察されたクラスターと整合性の問題

これまで『クラスター』と呼ばれる集団感染が発生しましたが、これらの『クラスター』と呼ばれる集団感染が本当に3つの条件を満たしているのでしょうか?

たしかにライブハウスは3つの条件を満たしているでしょうし、実際に『クラスター』と呼ばれる集団感染が発生しました。しかしながら、それ以外の事例は、3つの条件を満たしているようには思えないのです。

そもそも、スポーツジムでは、誰かが器具を使っている時には、危険なので近づかないように指導されているはずです。なので、手の届く範囲に多くの人がいるという状況は起こり得ないと思います。また、密閉空間であり換気が悪いとも思いません。それ以外にも、医療機関や福祉施設(デイサービス)などでも『クラスター』と呼ばれる集団感染が発生しましたが、「手の届く範囲に多くの人がいる」とも「密閉空間であり換気が悪い」とも思えません。当初、屋形船、ビュッフェスタイルの会食、雀荘、スキーのゲストハウス、密閉された仮設テントなどが例示されましたが、これらも本当に「手の届く範囲に多くの人がいる」「密閉空間であり換気が悪い」を満たしていたのでしょうか?

この『3密条件』は、科学的に検証されて明らかになった条件であると説明する方もおり、査読前の論文であるが「このような「3密空間」にいる感染者は、いない感染者よりも18.7倍も他の人へ感染させやすい」と説明していますが、実際の当該論文を確認してみても、開放環境(open-air environment)と比較して閉鎖環境(closed environment)では、感染の可能性が18.7倍である述べているに過ぎません。

実際は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の3月9日の見解でも「これまでの知見、エビデンスは限られており、感染経路については不明な点も多く、適宜、変更される可能性があります。」と説明されていたのですが、その後の事例を検証して条件に反映するという作業がされているようには思えないのです。

2.インフルエンザウイルスとコロナウイルスの違い

簡単に言ってしまうと、『3密条件』は、毎年冬になると注意しているインフルエンザの条件と何が違うのですか?ということです。

インフルエンザウイルスとコロナウイルスは、感染したときの症状だけではなく、感染の仕方についても傾向が異なると考えられている。よく知られている傾向の違いでは、インフルエンザでは子供が感染拡大の中心的な役割を担っているが、新型コロナウイルスでは大人が感染拡大の中心的な役割を担っている(例えばWHO Situation Report – 46)。

それ以外にも、一般にコロナウイルスは、インフルエンザウイルスよりも環境中における生存期間が長いといわれています。そして、今回の新型コロナウイルスも、インフルエンザウイルスよりも環境中における生存期間が長いだろうと考えられています。実際、そうであるが故に、今回の新型コロナウイルスの環境中における生存期間や汚染具合に関する研究もされています(例えば文献)。また、環境中における生存期間については、国立感染症研究所なども「新型コロナウイルス感染症に対する感染管理」でも述べられています。

それにもかかわらず、インフルエンザの流行時と同じことを注意していれば十分なのですか?これが『3密条件』は、科学的とはいえず、単なる経験則でしかないように思える点です。

3.感染経路としても一部しかカバーしていない

ここで再度、BMJのメンタルモデルを用いて『3密条件』を検証したいと思います。

MJのメンタルモデルを用いると、『3密条件』は、感染経路の一部しかカバーしていないことが良く解ります。しかも、新型コロナウイルスの環境中における生存期間が長いだろうという知見が反映されていないのです。

4.接触感染でもクラスターは説明可能?

いわゆる『クラスター』と呼ばれる集団感染は、飛沫感染ではなく、接触感染を用いても説明可能ではないでしょうか?

  • スポーツジム:運動機器を共用する上に、汗をかいて顔を拭く
  • 屋形船:瓶ビールや徳利を共用するし、カラオケでマイクを共用していたとの話がある
  • ビュッフェスタイルの会食:トングや取り分け用のフォークやスプーンを共用する
  • 雀荘:麻雀牌を共用する

それに、近時の報道からも接触感染によって集団感染が発生していることをしさする事例も多いです。

そもそも、一番最初のクルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の集団感染でも、食事担当の乗員を中心に感染が拡大したそうです。

また、中国の事例ですが、エレベーターのボタンやトイレの蛇口における接触感染で集団感染が発生したとの報告もあります。

5.間違ったメッセージになっていないか?

おそらく一般の人にとっては、政府がいっていることなのだから、『3密条件』を避ければ安全なのだろうと思っているはずです。

そして、だからこそ「花見は屋外なので感染の心配はない」と考えたのでしょう。これに対し「花見に伴って、狭い飲食店や仮設のプレハブ、テントなどの中に集まって飲食したり会話したりすることに感染のリスクがある」と答えても、そういう狭い飲食店の出店を規制すべきで、レジャーシートを敷いてワイワイやるのは許されるはずだとなってしまいます。温かくなれば、バーベキューをしたいという人達がでてきて、また同じ問答を繰り返すことになるでしょう。

しかも、「満員電車では発話や発声がないから3つのうち2つしか満たさない」としてしまっている以上、『3密条件』のうち、1つでも条件から外れていれば大丈夫であるとの考えを防ぐことができない。

そもそも論として、感染経路は1つではないにもかかわらず、殊更『3密条件』を強調することで、他の感染経路が注意不足になってしまうということになります。

そういう意味でも、『3密条件』は再検討が必要であると思います。繰り返しますが、この『3密条件』は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の3月9日の見解でも「これまでの知見、エビデンスは限られており、感染経路については不明な点も多く、適宜、変更される可能性があります。」と説明されていたのですから、当初の予定通り再検討するべきなのです。

上記分析結果が得られたとき、今回の新型コロナウイルスの集団感染が『人因子』でなく『環境因子』で引き起こされているだとうという洞察は素晴らしかったと思います。つまり、いわゆるスーパースプレッダーと呼ばれる『人因子』が多数の人に感染させるのではなく、特定の『環境因子』に依存して多数の感染を引き起こすということです。しかしながら、この素晴らしかった洞察も、その後の(政治的な?)様々な伝達によって歪められてしまったように思います。

リモートワークの感染予防

最後にちょっとだけ、今後増えるだろうリモートワークにおける感染予防についてコメントしておきたい思います。

政府自体もリモートワークを推奨しているのですが、そこで活躍するのがビデオ会議です。多くの会社や学校で急いでビデオ会議の機器やソフトを導入すること進められています。この流れによって増えてしまうかもしれない感染経路は、マイクやヘッドセットを介した感染なのではないでしょうか?

マイクやヘッドセットには、必ず飛沫が付着します。そして、ヘッドセットでは、飛沫が付着した機器を直接顔に近づけることになります。マイクであっても、飛沫が付着した状態で顔に近づけることにかわりがありません。このように、感染経路②がゴールまで繋がってしまう可能性が高まってしまうでしょう。

実は、マイクやヘッドセットを介した接触感染で集団感染が発生したのではないかと考えられる事例もあり、それがコールセンターとカラオケです。コールセンターで集団感染が起きたのは日本だけではなく韓国でも発生したことが知られています。

今後は、ビデオ会議でマイクやヘッドセットを使う際には、感染予防に気を付けることが安全でしょう。