知財高裁の専門委員に任命されました

平成30年4月1日、弊所代表弁理士:野口明生は、知的財産高等裁判所の専門委員に任命されました。任期中(2年)は、非常勤の国家公務員(裁判所職員)の身分になりますが、引き続き弊所における通常業務も行ってまいりますので、今後ともご愛顧をよろしくお願いいたします。

1.専門委員制度と趣旨

この専門委員制度は、多くの方があまりご存知ではないと思いますので、少し解説したいと思います。実際のところ、弁理士の中でもこの制度を知らない人も多いのではないでしょうか。

専門委員制度は、知的財産権訴訟など、専門的、技術的な事項が争点となる訴訟(専門訴訟)において、一層充実した審理判断を実現するため、平成15年の民事訴訟法の一部改正により新設され、平成16年4月から導入されました(知財高裁Web参照)。

専門委員制度自体は、必ずしも知的財産権訴訟に限った制度ではないのですが、知的財産高等裁判所の設立と時期が重なっていたこともあり、その関係は深いものです。実際、平成16年公布の知的財産高等裁判所設置法の第1条(趣旨)は、専門委員制度の趣旨である「一層充実した審理判断を実現」とも関連したものとなっています。

第一条 この法律は、我が国の経済社会における知的財産の活用の進展に伴い、知的財産の保護に関し司法の果たすべき役割がより重要となることにかんがみ、知的財産に関する事件についての裁判の一層の充実及び迅速化を図るため、知的財産に関する事件を専門的に取り扱う知的財産高等裁判所の設置のために必要な事項を定めるものとする。知的財産高等裁判所設置法

ところで、先日、ある判事から非常に興味深い話を聞きました。裁判官をしていると、行政的な役割を期待されることはほとんどないとのことです。そして、このことが知的財産権訴訟に携わるやりがいの一つになっているとのお話でした。

今までこのようなことを深く考えたことがなかったのですが、この国は三権分立を採用しており、裁判官に行政的役割を期待しないことの方がむしろ当然のなのかもしれません。裁判所は、国民の権利と自由を守るためのものだと学校で教わったようにも思います。

そのことを考えると、上記設立趣旨が「我が国の経済社会における知的財産の活用の進展に伴い、知的財産の保護に関し司法の果たすべき役割がより重要となることにかんがみ」と述べていることは非常に特別なことなのだと気づかされるエピソードでした。

私のような若輩が我が国の経済社会に貢献できることは多くはないかもしれませんが、知的財産高等裁判所設置の趣旨にかんがみ、知的財産に関する事件についての裁判の一層の充実のために精一杯協力したいと思います。

2.専門委員の訴訟手続きへの関与

専門委員は、判決言い渡しを除く、訴訟手続きのほぼすべての場面に関与する可能性がありますが、これらの場面を大きく分けると、①争点及び証拠の整理等の手続、②証拠調べの手続、③和解の手続になるとのことです(専門委員参考資料;最高裁判所事務総局編)。

裁判所HP「知的財産権訴訟における専門委員について」より

通常、知的財産権訴訟における専門委員は、これらのうち、①争点及び証拠の整理等の手続(弁論準備手続等)に関与することが多いと思います。この手続は、一般に「技術説明会」と呼ばれています。

この技術説明会では、当事者(原告代理人・被告代理人)から、裁判官、調査官、専門委員が技術的な事項について説明を受けることになります。専門委員は、その説明を受けて、不明確な点や不十分な点を質問することで、争点に関する技術的事項の整理に関与することになります。

知財高裁HP:専門委員制度紹介(技術説明会の様子写真②)より

3.特許法改正と専門委員

ところで、専門委員は、第196回国会で現在審議中の特許法改正にも関連があります。

今まで特許法の条文中には「専門委員」という用語は現れていなかったのですが、今回の法改正で「専門委員」の用語が初めて記載されることになるのです。

特許法の条文中に「専門委員」という用語が現れないということは、弁理士試験の際に勉強しない可能性が非常に高いということです。そして、専門委員である弁理士は全国で30人程度しかいないはずなので、日常的に接する機会もほとんどありません。そのような理由で、弁理士であっても専門委員のことを知らない人が多かったのですが、今回の法改正で「専門委員」の用語が記載されることによって、試験勉強で目にすることもあるでしょう。結果、知名度が向上するかもしれないと少し期待しています。

ちなみに、どの条文に「専門委員」の用語が現れる予定であるかというと、「インカメラ手続」と呼ばれている制度の条文です。

第105条4項 裁判所は、第二項の場合において、同項後段の書類を開示して専門的な知見に基づく説明を聴くことが必要であると認めるときは、当事者の同意を得て、民事訴訟法第一編第五章第二節第一款に規定する専門委員に対し、当該書類を開示することができる。平成30年改正(予定)特許法

不正競争防止法等の一部を改正する法律案の参考資料より

この改正により、現行法では、裁判官は、侵害行為の立証に必要な書類であると判断した後にのみ、インカメラ手続により事前に証拠を見て、提出を拒む正当な理由の有無を判断することが可能だったものが、侵害行為の立証に必要性な書類であるかどうかの判断についても、インカメラ手続を可能とすることで、裁判所はより早い段階で適正かつ迅速な証拠収集が可能となるとのことです(不正競争防止法等の一部を改正する法律案の参考資料より)。