文字商標の音声的使用

昨日(26日)、音楽的要素のみからなる音商標について初の登録がされました。これに関連して、「文字商標の音声的使用」の問題について思い出しましたので、記載しておきます。

音商標が導入される前は、文字商標を音声として発する行為は商標法上の使用には該当しないというのが定説でした。少なくとも私が弁理士試験を受けていた時にはそうであったと記憶しています。

しかしながら、法改正によって、商標の定義に「音」が含まれたことによって、文字商標の音声的使用が「音商標」の使用に該当することになるので、登録文字商標に類似する音の商標を使用する行為として、文字商標を音声として発する行為が商標権侵害(37条1号)となり得ることになってしまったのです(参照)。

この変更はあまりにも衝撃的で、数年前のあるセミナーでは元知財高裁所長の方でも驚いた様子で質問をされていたのを記憶しています。実のところ、私のような鈍い人間は、その質問のおかげで、事の重大さに気付いたぐらいに想定外の事態であったのです。

今回、インテル社の音楽的要素のみからなる商標(インテルサウンドロゴ)が登録されたのですが、このサウンドロゴは、純粋にサウンドロゴとして使用されるだけではなく、文字商標の音声的使用としての側面もあると考えることもできます。

以下は、少女時代というグループがインテル社とコラボレーションして制作したミュージックビデオです。なお、下記動画は、問題となる曲が終わった部分から再生されるように設定してあります。

[Visual Dreams (Intel Collaboration Song) from official YouTube]

このビデオの最後で出演者たちは「パン パパパパーン」という音声を発するのですが、これは文字商標の音声的使用という側面もあるはずです。この例に限らず、インテル社のCMではサウンドロゴを出演者の音声で代用するものがいくつもあります。

もし仮に、「パン パパパパーン」という文字商標をマイクロチップ等の指定商品で第3者が商標登録を受けてしまったらどうなるのでしょうか。上記ビデオは、当該登録文字商標を音声として発する行為であるとして商標権侵害(37条1号)になってしまうのかもしれません。

今回インテル社が取得したサウンドロゴの商標登録は、「パン パパパパーン」という音声も保護範囲に含むと考えられますが、禁止権範囲での保護となってしまうことでしょう。そうすると、登録文字商標の音声的使用に対抗することができないことになります。

上記事例に限ってみれば、経過措置としての「継続的使用権」(附則3条)が認められるかもしれないのですが、文字商標と音の商標との関係は非常に複雑で厄介な状況になってしまいました。

特許庁の対応としては、文字商標とこれを読み上げた「音」の商標とは、互いに類似し得ることを前提として登録を拒絶(4条1項11号)するとし、その基準も審査基準に追加したのですが、そう簡単には適切な審査をすることができないのではないでしょうか。