ムーミンのセンター試験問題について

2018年のセンター試験における出題が議論を呼んでいるようです。知財とは直接的には関係がないのですが、少し思うところもありますのでコメントしておきます。

2018年のセンター試験の地理Bでは、「ムーミン」が登場する問題が出題されました。この問題に関し「出題ミス」であるとの指摘もされているようです。その根拠は「ムーミンの舞台がフィンランドであるとは断定できない」とか、「そもそもムーミンに関する知識は地理の問題ではない」というものようです。以下、議論となった地理Bの第5問の問4を引用し、この問題を検討してみたいと思います。

さて、この問題なのですが、「ムーミン」に関する知識を問う問題なのでしょうか??確かに「ムーミン」が登場しているし、「ムーミン」に関する知識があれば正答が容易だったと思います。

しかしながら、この出題の意図は

ヨーロッパの言語分布の知識とその知識の運用能力

だったはずです。

ヨーロッパには、主にゲルマン語系とラテン語系とスラブ語系の3つの系統言語が分布しており、ノルウェー語とスウェーデン語は同じゲルマン語系に属しています。このことは中学の地理の知識です。実際、NHK for Schoolにおける中学向け電子教材「地図から考えるヨーロッパ諸国の共通点」にも言語分布の地図が示されています。

NHK for School「地図から考えるヨーロッパ諸国の共通点」から引用

そして、問題文の中には、スウェーデン語であることがヒントとして示されているのですから、これと綴りや語順が類似しているゲルマン語系のノルウェー語であることが選択できるはずです。

つまり、この問題は、言語分布の知識を運用して(知るはずもない)ノルウェー語を推定させるという、非常に工夫を凝らした出題だったのでしょう。

なお、上記NHK for School「地図から考えるヨーロッパ諸国の共通点」では、同じ系統の言語は言葉が似ていることを指摘し、「家族」を表す言葉を例にして、フィンランド語ではゲルマン語系とは大きく異なることを示しています。

NHK for School「地図から考えるヨーロッパ諸国の共通点」から引用

ところで、ノルウェー語の選択肢Aであることが解っても、「ムーミン」の舞台がフィンランドであることを知らなければ正答することができないと考える意見もあるかもしれません。それに対しも、ビッケの舞台がノルウェーであることが解ればよいことを指摘できるでしょう。それどころか、ビッケの舞台がノルウェーであることさえも知らなくても正答できるように思えます。

何故ならば、辞書の記載からも分かるように、

「バイキング」なんて、北方ゲルマン民族の別名みたいなもの

ですから、北方ゲルマン民族である「バイキング」が話す言葉がゲルマン語系であるのは、むしろ当然なことです。だとすると、選択肢チが選択肢Aに結びついて、一方の選択肢タが選択肢Bに結びつくことになり、正答を導くことが可能です。

思えば、ゲルマン民族の分布やゲルマン語系の分布は、地理の知識として基本だった気がします。自分が勉強したのは数十年も前のことですが、勉強したこと自体は今でも覚えている程です。今回議論の的になった出題は、この基本的知識を、単に知っているだけではなく、運用する能力を試していたのでしょう。そもそも問題文の中にも「3か国の文化の共通性と言語の違いを調べた」とあるのだから、検討すべき内容は示されていたと見るべきです。作者の国籍や出自に拘泥するのは、題意を外しているように思います。

大学入試が知識偏重の槍玉に挙げられていたのは、今や過去のものになり、現在の大学入試は、単に知識があるだけではなく、その知識を運用できなければ正答できないものになっているのかもしれません。今の受験生たちが、このような思考能力を試すような試験を受けていることを、むしろ羨ましくも思います。

弁理士の仕事は少し特殊だったりするのですが、この仕事をしていると、中学や高校で勉強する知識が身に付いていない人を目にすることが多いです。これは、統計的に多いというよりも、必要であるにもかかわらず身についていないから目立っているだけなのかもしれません。おそらく、どのような仕事をしても単に知っているだけでなく知識の運用能力が試される場面が少なからずあるのでしょう。そのような経緯から、知識偏重型の教育が見直され、大学入試さえも変わってきたのだと思います。

正直なところ、今回議論になった問題は詰めの甘さもあったようにも思いますが、一方で、巷間の意見としても「ムーミン」の知識に対する批難に終始していたことは、社会全体が知識偏重に毒されているといえるのではないでしょうか。

これからの社会としては、この問題が解けなかった若者に対しても、

これって、本当に「ムーミン」の知識を問う問題なのかな?

と問いかけることも必要なのだろうと思いました。今回図らずもこの問題が世間の注目を集めたことにより、受験生だけでなく、社会全体が試験されたようにも思います。