いきなり!ステーキ特許の発明該当性について


知財高判平成30年10月17日(平成29年(行ケ)第10232号)[いきなり!ステーキ事件]における発明該当性について解説します。この事件は判決がされた当初からマスコミなどでも取り上げられ大きな話題となりました(例:等)。一方、この事件は不正確な理解や伝えられ方もされているように思います。そこで、判決でなされた発明該当性の判断について少し詳しく解説します。

先日(12日)の知財学会・判例研究会の題材の一つは「いきなり!ステーキ事件」でした。正直なところ当日は十分な事前検討をして臨んでいなかったので、その際には必ずしも有益な指摘をすることができなかったように思います。その反省の意味を込めて判決文を再検討したところ、幾つかの点でこの事件の判決は誤解されていると思うに至りました。

なお、私にとっても、この事件の最初の印象は「こんなものが発明に該当するなんて!」というものでした。しかしながら判決文を読んでみると、むしろ原告(特許権者)の主張の方が正論であるように思えたりもします。この腑に落ちない点が何であるかを考えると以下のような結論に辿り着きます。


「自然法則の利用」と「技術的思想」は違う

特許法2条1項は、特許法上の「発明」の定義を与えているのですが、この条文の中には法上の「発明該当性」の要件が4つ定められているとされています。

特許法2条1項
 この法律で「発明」とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。

  1. 自然法則を利用したこと
  2. 技術的思想であること
  3. 創作であること
  4. 高度であること

ここで注意が必要なのは「1. 自然法則を利用したこと」と「2. 技術的思想であること」は異なる要件だということです。このことは判例上も明確にされています。つまり、たとえ技術的思想であったとしても、自然法則を利用していなければ、法上の「発明」には該当しないのです。本件判決を読み解くにはこの違いの理解が重要です。

ある課題解決を目的とした技術的思想の創作が,いかに,具体的であり有益かつ有用なものであったとしても,その課題解決に当たって,専ら,人間の精神的活動を介在させた原理や法則,社会科学上の原理や法則,人為的な取り決めや,数学上の公式等を利用したものであり,自然法則を利用した部分が全く含まれない場合には,そのような技術的思想の創作は,同項所定の「発明」には該当しない。

知財高判平成24年12月5日(平成24年(行ケ)第10134号)[省エネ行動シート事件]

発明該当性に対する2つの取消事由の主張

本件判決の「第3 原告主張の決定取消事由」には、3つの取消事由が記載されています。

  1. 取消事由1(本件特許発明1の発明該当性判断の誤り)
  2. 取消事由2(本件特許発明1の発明該当性判断の誤り)
  3. 取消事由3(本件特許発明2~6の発明該当性の判断の誤り)

ここで着目すべきは、本件特許発明1に対して2つの取消事由を主張している点です。「取消事由1」で本件特許発明1の「技術的思想であること」を主張し、「取消事由2」で本件特許発明1の「自然法則を利用したこと」を主張したかったのでしょう。実際、「取消事由1」では「本件特許発明1の技術的意義」が「物」自体に向けられていることが主張されており、一方、「取消事由2」では「本件特許発明1は,自然法則を利用したものである」ことが主張されています。

エ 以上のとおり,本件特許発明1の技術的意義は,経済活動それ自体に向けられたものではなく(ましてや単なる人の精神活動や人為的な取決めそれ自体に向けられたものでもなく),前提とする技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らし,全体として考察した結果,「札」,「計量機」,「印し」又は「シール」という「物」自体に向けられており,「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する。

第3[原告主張の決定取消事由]の1[取消事由1]

このように,本件特許発明1は,人間(ステーキを提供する側の店舗スタッフ)に自然に備わった能力のうち,番号に対する識別能力が高いという性質を利用することによって,どのお客様がどのステーキを注文したのかを記憶せずとも,特定のお客様の要望に応じてカットした肉を焼いたステーキを「他のお客様のものと混同が生じない」ように提供する,という一定の効果を反復継続して実現するための方法を示しているから,本件特許発明1は,自然法則を利用したものである(知財高裁平成20年(行ケ)第10001号同年8月26日判決参照)。

第3[原告主張の決定取消事由]の2[取消事由2]

ただし、「技術的思想であること」と「自然法則を利用したこと」は、両方を満たして初めて発明該当性の主張となるべきものですから、本来は1つの取消事由の中で主張されるべき性質のものでした。このように2つの取消事由に分けられてしまった理由は、特許庁が下した取消決定が「技術的思想であるか否か」のみを判断しているからなのしょう。判決文に記載された「取消決定の理由の要点」を読む限り、「自然法則を利用したか否か」の判断をしているようには思えません。

(追記:2019.3.13)取消決定前の意義決定はここで確認できることが解りました。やっぱり「自然法則を利用したか否か」の判断を疎かにしているようです。

 そうすると,本件特許発明1において,これらの物は,それぞれの物が持っている本来の機能の一つの利用態様が示されているのみであって,これらの物を単に道具として用いることが特定されるにすぎないから,本件特許発明1の技術的意義は,「札」,「計量機」,「印し」及び「シール」という物自体に向けられたものということは相当でない
  (中略)
 エ 以上によると,本件特許発明1の技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等に基づいて検討した本件特許発明1の技術的意義に照らすと,本件特許発明1は,その本質が,経済活動それ自体に向けられたものであり,全体として「自然法則を利用した技術思想の創作」に該当しない。

第2[事案の概要]の3[取消決定の理由の要点]の(1)

また、原告が主張する取消事由1に対する「被告らの主張」も、「自然法則を利用したか否か」に関するものではなく、「技術的思想であるか否か」に関するものです。もっとも、これは原告が「技術的思想であるか否か」と「自然法則を利用したか否か」を取消事由1と取消事由2に分けて主張したのですから当然の流れかもしれません。

(4) 原告は,本件特許発明1は,構成要件B~Fの「札」,「計量機」,「印し」又は「シール」という物を,課題を解決するための技術的手段の構成としており,これらは,本来の機能の一つの利用形態が示されているのみではなく,それぞれ課題を解決するための特別な役割を担っていると主張する。  しかし,本件特許発明1において,「札」,「計量機」,「印し」又は「シール」は,それぞれ独立して存在している物であって,単一の物を構成するものではなく,また,以下のア~ウのとおり,本来の機能の一つの利用態様が特定されているにすぎない。決定が,本件特許発明1の技術的意義が「札」,「計量機」,「印し」又は「シール」という物自体に向けられておらず,経済活動それ自体に向けられたものであると判断したことに誤りはない。

第4[被告らの主張]の1[取消事由1に対し]の(4)

裁判所の判断

上記のような主張の対立に対して、裁判所は「取消事由1」については理由あり(原告主張を認める)とし、「取消事由2」については判断をしませんでした。

特許庁が下した取消決定が「技術的思想であるか否か」のみを判断しているのだから、「技術的思想である」という原告主張の「取消事由1」が正しいのであれば、「取消事由2」の当否にかかわらず取消決定が誤りであったとことなるわけです。

以上によると,取消事由1及び3は,いずれも理由があり,取消事由2について判断するまでもなく,取消決定にはその結論に影響を及ぼす違法があるから,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。

第5[当裁判所の判断]の4[結論]

ここで重要な指摘としては、裁判所は、本件特許発明1に関して

「自然法則を利用したか否か」について判断をしていない

ということです。

このことは、「いきなり!ステーキ」のビジネスを特徴づけるいわゆるビジネスモデル特許が、実際のところ本当に特許法上の「発明」に該当しているか否かについては不明な部分が残っていることになります。なので、もし本件特許発明1と同様な出願をしても発明該当性が認められないことは起こり得ることだし、その事自体は本件判決に矛盾することにはならないのです。

つまり、この事件は、あくまでも

特許庁が下した取消決定が誤りを含んでいたので
裁判所はその決定を取り消した

と理解すべきなのです。

もっとも、「自然法則を利用したこと」という要件は不要なのではないかという意見もあり、この要件の解釈についても必ずしも見解が統一していない状況がありますので、本件特許発明1と同様な出願をするというチャレンジは否定されるものではありません。しかし、不正確な理解に基づく扇動に惑わされてハイリスクな特許出願をしないように気を付けるべきでしょう。

なお、本件判決が行った「技術思想であるか否か」の判断は、過去の裁判例と比較において妥当なものだったように思います。この点が、発明該当性を満たすはずがないという直感に反し、実際に判決文を読んでみると、むしろ原告(特許権者)の主張の方が正論であるように思えた理由だったのでしょう。

特許法2条1項は,発明について,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう」と規定する。ここにいう「技術的思想」とは,一定の課題を解決するための具体的手段を提示する思想と解されるから,…

知財高判平成25年3月6日(平成24年(行ケ)第10043号)[偉人カレンダー事件]

余談(判決後の問題)

上記のように、本件判決は、取消事由1および3について判断したのみで、取消事由2に判断することなく、特許庁が下した取消決定を取り消しました。このような場合、特許庁で行われる再度の異議申立の審理において、取消事由2に関する審理および決定を行うことは行政訴訟法33条1項の規定に反するものではないはずです。

しかしながら、差戻しの異議申立の審理においても「自然法則を利用したか否か」についての審理を行うことなく、最終的に特許の維持決定がなされました。結局のところ、「いきなり!ステーキ」のビジネスモデル特許(特許5946491号)が「自然法則を利用したか否か」について、裁判所も特許庁も判断していないのです。